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@ PBW(Play By Web) "SilverRain" & "PSYCHIC HEARTS"
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――2011.08.30




夏の終わり、某県の外れ。
地元の者すら近づかぬ知らぬ、荒れ果てた洋館。
しかし、この日は館の周囲にちらほらと客人の人影。
年齢にも風貌にも共通点が見出せぬ、人影の群れ。

共通点は――とある鎌倉の学府に籍を置くか既に卒業したか、それだけの。


「どうしてオレはだめなのですか姉上様」
「貴方と花雹(かひょう)では自身の身体だけを保つ事すら難しいからよ、稚都世」

緋色のリボン映える漆黒髪の少女に、納得がいかぬと蒲公英色の髪の少年が問う。
此処まで無理矢理付いてきたものの洋館には決して近づくなと諭されたが故の、問い。

運命予報士が告げた、運命予報。
仲間の、自分自身の生命の危険すら覚悟せねばならぬ激戦の予報。
例え禍津と真に隣り合わせだった頃生まれだとて今回の戦力として数えるには、
この小柄な少年――掛葉木稚都世は余りにも柔過ぎた。
モーラットの花雹を相棒にする前ですら難ありだったのだから現状では何を況や。
放り込まれた抗体空間次第では即死の可能性すらあるのだから。

「……姉上様兄上様皆様が苦しい思いをしているのにオレだけ何も出来ないのは嫌です」
「私は貴方が傷付き倒れ助けられずに命を落とす事が嫌よ」

姉上様、と稚都世に呼ばれた少女――掛葉木はたるは静かな口調のまま言葉を返す。


「もうホントどーして杏ちゃん絡みは毎度毎度世界結界危機的状況ばっかなん……」
「? 杏ちゃん?」
「運命予報士さん、杏の字使うてるから杏ちゃん。――今まで何あったか聞きたい?」
「んじゃ一応聞いとく」
「ん、幼女リリス主催の混成集団20鬼夜行に特殊空間付き地縛霊の隠し大ボスとか、
8両編成暴走ゴースト特急を夜中にコカせとかとか縫いぐるみ倉庫にモラ50匹いるよとか」
「……はぁ?! それ普通の依頼じゃねぇよどれもこれも!」
「んにゃ普通も何もマジで杏ちゃんから正式にぶん投げられた依頼ですが何か」
「……どう考えても一歩間違えりゃ戦争レベルじゃねぇか」

熱帯びる晩夏の風に揺れる銀の髪ふたつ。
微か青味を帯びた銀の主の縁は独逸、氷青の瞳、色白の肌。
白光の糸と見紛う銀の主の縁は東予、翠玉の瞳、色黒の肌。
語られた過去の顛末に大きな溜め息を吐く氷青の青年――ルドルフ・ジルバークーゲル。
その様子にやれやれ、と肩を竦める翠玉の青年――尭矧彩晴。

「……つか、そんな依頼ばっかでよく生きてたな彩晴」
「俺単独で行ったわけやないし、てかルドルフ勝手に殺されん勝手に」
「だってお前の戦術ってインフィニティエア通常運転じゃん?」
「通常運転違うっつの戦況ヤバけりゃ封印しとるわ」
「2回同じ依頼かち合ってどっちも使う気満々で実際使ったよな佐世保ん時」
「その佐世保で切り札扱いならOKてゴーサイン出したんは誰ぞね?」

……似た者同士なのか違うのかどうなのか。


「大変な臨海学校が終わったと思ったらまたすごい事になっちゃったねー……」
「堤からの物騒な依頼召集も最近の晩夏の風物詩になりつつあるな……」

先程彩晴が列挙した中で50匹モラを除けば臨海学校後に勃発した死闘ばかり。
一昨年も去年も大変だったが今年もどうやら同じ状況……二度ある事は三度という奴か。
廃墟と化した洋館の玄関前を見上げる銀髪の少女――ユエ・レインの嘆息に苦笑し、
しかし要請を受けた以上は果たすだけと応える、頬に古い傷跡を残す青年――渕埼寅靖。

「でも典杏姉ちゃんの依頼って野良モラ捕まえて温泉旅館に泊まった時以外、
最初から最後まで皆で一緒の戦場にならない事ばかりだよね」
「そうだな……最初は迎撃挟撃、次は運転席へと最後尾から侵攻、そして今度は二面作戦」

予報士の視るゴースト絡みの未来や過去――即ち能力者に託す依頼。
そういえば運命予報を駆使する予報士自身と視る依頼との相性という物はあるのだろうか。
洋館前に集いし能力者達と縁を繋ぐ運命予報士の高校生、
堤典杏の場合は些かそれが両極端に過ぎるようで。
ある意味和みの極みとも言えそうなモラの大群潜伏を予報したかと思えば、
まるで最低限誰かひとりの生命を失う覚悟で臨めと言わんばかりの凄惨な死地を視る。
……そして、大概その死地へ事も無げに踏み込む人間も決まっているのだが。


「――それじゃ、以降の符丁は決めた通り」

事も無げに通話を切る。
……続く溜め息は事も無げとは程遠かったが。
携帯電話の短縮設定をもう一度確認した後、はたると稚都世の元に向かう青年の姿。

「……兄上様」
「戦闘に関わらない代わりって言ったら微妙に語弊もあるけど頼みたい事がある」
「オレに、ですか?」
「そう。館外に――抗体空間外にいる人間じゃないと出来ない事」

怪訝そうな顔をした稚都世に、兄上様と呼ばれた青年は自分の携帯電話を差し出す。

「実際問題使わないに越した事はないけどな。
――誰かひとりでも生命に関わる負傷状態で戻ったらここを押した後通話ボタンを押して。
繋がってもすぐに切れるけど放置でいい。“俺の携帯からの着信”そのものが符丁だから」

そう説明しながら、短縮発信を設定したボタンを示す。

「はた、そっちの携帯の短縮設定は終わってる?」
「さっきの話ね。ええ、準備万端よ。
――稚都世、いちの携帯の操作が終わったら今度は私の携帯から短縮発信して。
繋がる先は典杏さんだから、聞かれたままに応えれば大丈夫よ」
「兄上様の携帯の後は姉上様の携帯、ですか。……さっき符丁だって言ってましたですが」
「ええ。この組み合わせでの発信は“緊急事態(スクランブル)発生”の暗号代わりよ」

息を呑む稚都世に、青年がはたるの説明を継ぐ。

「逆の組み合わせで発信したら無事の報せ。
だけど無事よりも重傷者発生の方が一刻を争うから、その時の為の、短縮発信」
「……ええと、ちなみに兄上様の携帯の先はどなたなのですか?」
「医師の飯塚周さん。『矧』の関係者で偶然依頼の話をしたら近場で待機するって事に」
「……飯塚先生、もう足は大丈夫なのかしら。
流石に片足義足では此処まで登るのも一苦労じゃない?」
「ああ、うん、まあそれは多分大丈夫だとは思う、よ……。
昔通りの四駆操縦テクニックが義足でも充分可能になったってその時言ってたから」
「そ、そうなの……流石『矧』というか掛葉木の系譜というか……」

……聞くだに何ともアグレッシブな医師である。

「まあ、万が一の事態で医師が呼べるってのは保険として大きいからね。
……無事に戻る努力はするけど」
「分かりました。……姉上様と兄上様の携帯、お預かりしますです」

黒に六花、白に蔓薔薇、ふたつの携帯を手にする稚都世。

「……お怪我、しないでくださいです」
「大丈夫よ稚都世。ひとりで戦いに行く訳じゃないわ」
「大事な義弟(おとうと)を置きざりに黄泉津比良坂を登らされてたまるか」

花綻ぶ笑みを稚都世に向けたはたると、身を翻し洋館へと向かう青年――掛葉木いちる。

6人の能力者が玄関前に揃い、軋んだ音を立てて開いた扉の奥に消えていく。
薄く開いたままの扉の奥から足音が聞こえなくなってから稚都世は肩掛け鞄を開く。
2個の携帯と入れ替わりに1枚のカードを取り出した。

「――イグニッション」

起動宣言。
今時の男子小学生らしい活動的な装いが、茜の紐が映える白磁色の水干姿に変わる。
ほぼ同時に彼の隣に現れた白の妖獣――モーラットピュア。

「……花雹様」

抱き上げて白のふわもこな毛並みに顔を埋める。
今出来るのは、待つ事だけ。



――誰も深い怪我を負う事無く、戻ってくる事を。
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